先月に引き続き当社の「人事についての考え方」について話をします。

まずは、前回のおさらいです。最初に、総論的な話をしました。

一番目は、経営における人事の役割についてということでした。

経営について、当社では、経営とは「ヒト・モノ・カネ・情報」等の経営資源を使ってそれらの合計以上の成果を生み出すことと定義しています。なかでも「ヒト」は最も重要な経営資源(人財)であり、企業の経営資源は結局「ヒト・ヒト・ヒト」であり、ヒトは目的資源でもあるということです。従って、経営が上手くいっているかどうかは、儲かっているかどうかではなく、いかに人を生かして成果を上げているかが問われることになるのです。そういう意味で人事は大切であるということです

 

二番目に、「人事」と「財務」は組織の動脈ともいうべき重要なもので、ここを切られると組織は死んでしまう、だから経営責任者は最後までこの二つの機能の責任を放棄してはいけないという話をしました。「営業力」「技術力」「商品力」など、会社には色々なコア・コンピタンスともいうべき強みがあるわけですが、それを生かすも殺すも「財務」と「人事」にかかっているからです。

 

三番目に、従って“経営センス”の良し悪しは「財務」と「人事」を上手に回せるかということにかかっているという話をしました。

以上が総論で、次に本題である当社の人事方針について話をしました。と言ってもこの数年間実践していることです。従って、今回方針を改めるわけではありませんが、一度整理しておくということです。

 

 1.実力主義(=貢献主義)

最初は実力主義ということですが、これは二つの意味があります。

ひとつは、学歴、職歴、性別、縁故、国籍等は一切昇格や昇進に影響しないという意味の実力主義であるということです。その理由は環境も人間(人材・人財)も変化していくからです。

これをなぜ冒頭に申し上げたかというと、この会社では、以前はそういうものが人事に大きく影響していたからです。

もうひとつは短期的な業務実績だけを評価するという意味での実力主義ではなく、どれだけ社員の幸福を実現する実力があるかが問われるのだということです。

 

2.「強み」を生かす(=適材適所)(理念本①P36参照)

次に、適材適所を心がけるということで、これは私が社長就任以来ずっと言い続けている「強みを生かす」ということと同じですよということです。

基本方針は、個々人の長所を見つけ、それを評価し貢献してもらうことです。

そして、これまで昇進において重要視してきたポイントは「自分への厳しさ」(克己心)であるということでした。役職が上がれば上がるほど謙虚になり、勉強が必要になる組織を目指しているという話をしました。

「自分への厳しさ」と同じくらい大切なのが「他人への優しさ」であり、これも重要ポイントにすべきなのでしょうが、それは今後教育していこうと考えています。

 

3.抜擢人事と敗者復活戦

これは実力主義であれば当たり前のことなのですが、ある程度の抜擢人事はありうるということです。

これも私がこの会社の社長になる以前にはなかった方針なので、あえてこれを強調したわけです。当時は、役員は株主のご一族だけでしたし、本部長・支店長等の幹部は大口取引先出身の方ばかりでした。

経営理念変更後、新体制に移行するに際して私が選抜した幹部の皆さんは、その時点ではマネジメントに必要な見識や能力が十分備わっていない方ばかりでしたので、ある意味全員抜擢人事だったわけです。まさに、できるかどうかわからないが、チャンスを与えて任せてみる。一定の時間を与え、教育を施し、その内容に基づいて自分で考え、試行錯誤をしていくうちにだんだん育ってくるだろう、という楽観的な考え方でやってきました

多少の失敗もありましたが、概ね立派に成長してくださっていますし、たとえ失敗して降格になったとしても敗者復活戦はあるので、失敗を恐れないで挑戦してほしいと思っています。

 

4.見識のある幹部の育成(=風通しのよい組織と権限移譲の前提)

人事を考えるうえで、「風通しの良い職場」にするにはどうしたらいいかということを念頭に置いているという話でした。口で言うだけでは「風通しの良い職場」にはならないのです。私は、そのためには「部下の意見を聞く耳を持ち」、「衆知を集めることができる」組織にする必要があり、その前提として幹部に一定の見識が必要であると考えているので、それをできる限り実践しているということを申し上げました。

また、幹部に思い切って権限を委譲するにも幹部に見識があることが前提です。なぜなら幹部にしっかりとした見識がないと無政府状態のようになってしまう可能性があるからです。

 

おさらいは以上で、ここからが、今日の話です。

 

5.採用についての考え方

採用の根本方針をズバリ申し上げると、当社に入社して幸福になる可能性の高い方を採用するということです。なぜなら当社の経営目的は社員が幸福になることだからです

学生の皆さんは、社長面接では何を聞かれるのかと心配していると思いますが、私は主にここのところを見ています。雑談ばかりしているように感じると思いますが、実は「この方は当社に入社することで幸福になるだろうか」いうことを観察しているのです。そのためのポイントが何点かあります。

 

①経営理念に親和性のある方を採用する

一番目は、理念への親和性です。それを見るために社長面接では「この人は、絶対的な幸福と相対的な幸福のどちらを選ぼうとしているか?」ということをチェックしています。分かりやすく言えば、就職に当たり、この人は自分の心のモノサシ(価値観)で会社選びをしている人か、それとも外部のモノサシ(世間の評価とか親や学校の先生の意見)に左右されて自分の進路を決めてしまう人かという点です。

外部のモノサシを基準にしている人は、自分の幸せを他の人に委ねてしまう傾向性が強く、何か自分に都合の悪いことがあると会社や他の人のせいにする傾向性があります。決して他人の意見を聞くなと言っているわけではありません。人の意見はきちんと聞くべきですが、人によって言うことは違いますし、変動するものなので、人の意見を聞いたうえで、最終的には自分のモノサシで判断できるかということは、絶対的に幸せになるために大きなポイントとなります。

以前から、当社で追求している社員の幸福とは、誰かと比較して幸福かどうかを測るような相対的な幸福ではなく、自分の価値観で測る絶対的な幸福であると申し上げていますので、その考え方に共鳴していただけるかどうかということは、入社に際しての非常に大きなポイントなのです。

 

話は変わりますが、8月の最終週、岡山県庁のお誘いで一週間シリコンバレーを訪問してきました。その際、知事に随行してシリコンバレーにある公立高校で、授業風景を参観し、先生方や生徒さん方と話をするという非常に貴重な経験ができました。日本とはかなり違う非常にユニークな取り組みをされていましたが、結局、この学校では絶対的な幸福を追求するような教育に取り組んでいるのだと思いました。

この学校はシリコンバレーの中にある学校なので、人種の違いやそれ以外にもさまざまな「差」がたくさんあるわけですが、そういう難しい環境の中で、どういう教育をしているのかということを話して下さいました。「日本では、有名な大学に入ることが重視されがちなのだがこちらではどうですか?」という質問をしたのですが、 皆さん異口同音に「ここでは、勉強して入試が難しい大学に行くことは大事ではあるが、それと成功とは全く関係ないと教えています」「失敗を恐れないことが成功なのだ。失敗を続けることが成功につながるのだ。ということを教えているのです。」と熱く語られていたことが非常に強く印象に残っています。これは、絶対的な幸福を重視する考え方であり、当社の人事に関する考え方に近いところがあります。

入社当初は、頭の良し悪しとは別に、スキルやキャリアの差は明確にあるわけですが、その人の入社後の自助努力(セルフヘルプ)によって成長することを前提に採用しており、決してスタート地点のスキルだけで判断しているわけではないということです。

➁実力相応な方を採用する

ただ、当社の理念に親和性のある方であっても、当社の会社としての規模に合っていない方、また能力的にあまりにもミスマッチの人は、不幸になる可能性が高いので採用しない方がいいと思っています。

これは、たとえば急激に会社の規模が大きくなると、それまで小さい会社では活躍できた社員が突然不適合になるのと同じことです。もし、当社が会社の急成長・急拡大を目指そうと思えば、より全国的に大量採用したり、M&Aを仕掛けたりすることはできるのですが、そういう風に業容を拡大しても、それは必ずしも社員の幸福を実現することにならないので、当社では業容の急成長・急拡大は目指していないのです。

以上簡単に採用のポイントを話しましたが、もちろんこれだけではありません。採用にはこれが正解と言えないものがあり、ここが人事の難しさでもあります。

 

6.「人を育てる」カルチャーの醸成

人事方針の6番目は、人を育てる文化を醸成することです。

ドラッカーは、人事の失敗の原因は「真摯さ」が足りないからだと言っています。

私は、人事における真摯さとは、

● 組織文化として「人を育てる」カルチャーが根付くこと

● 寛容さと厳しさを使い分けられるようになること

ではないかと考えています。

たとえばある人を育てようと思って、キャリアパス的に別の部門に異動させたが全くうまくいかなかったときに、その人を上手に生かしていくための人事を実施することが真摯さにつながるのではないかと思います。そういう「ある部門(業務)では使えても、別の部門(業務)では使えない」という人をどう生かしていくかということです。具体的には、「仕事の組み合わせ」や「人の組み合わせ」を考えることでしょう。また、スペシャリストの集団においては、相手の気質に合ったほめ方、叱り方を工夫していくことが大事だと考えています。

 

7.専門職(スペシャリスト)の使い分けについて

また、似たようなことではありますが、当社のように技術的な職種の多い会社では、一定の技術のスペシャリストについてどう使い分けをするかということは重要なことになります。この人は専門家ではあるが、マネジメントの教育をおこない、経験を積ませたら経営者に育つ可能性があると思う場合は、計画的に導いていきますが、そうでない場合は専門家としてのキャリアを推奨すべきだと考えています。

また、これからの時代は、スペシャリストと言っても、設計図通りにプログラミングする仕事しかできない人や細かく指示しないと動けないような人には、自分で考えて「判断ができる頭脳」を作る教育や訓練が必要であると考えています。

また、責任ある立場の方々に対しては「頭の瞬発力」や「切り返す能力」を磨き、自分で判断し、取引先と交渉できる人財に変えていくための教育を目指し、取り組んでいます。

また、もし職人肌的にその人にしかできない仕事があれば、その技術やソフトを標準化し、教育によって他の人にもできる仕事に変えていくべきだと思います。

ただ、現実には、人の可能性の見極めは非常に難しいことです。人事的に心がけるべきことは、単に好き嫌いでやっていないことを示す努力をすることです。

 

8.経営幹部の育成と人事

最後に、経営幹部に対する人事方針について話をします。

(1)自部門だけでなく「全体を見る」ことを意識する

最初は、全体を見るように教育することです。具体的には、

● 社内における自部門の役割・位置づけを理解し、自分に与えられた仕事に全力で取り組んでもらう

● 会社全体の現状を把握する(当社は、何が課題で、それを解消するためにどこに力を入れているのか、どこがネックになっているのかを把握する)ことです。

そのために色々な経験をさせて「会社全体を見ることができる幹部」を作ることを試みています。人事的には、順風と逆風の両方を経験させることができるといいと思います。たとえば、事業的に黒字が出ているセクションに投入し黒字を拡大させたり、恒常的に赤字が出ているようなセクションを体験させ、黒字転換する力量を養わせたりすることです。

会社の組織改編や人事異動の内容を見ると、その会社の人事の考えがわかります。

また、トップが変わると、好き嫌いで役員が総替えになることもあるなど、恣意的になりやすいので、トップ1人で考えるのではなく、誤解を回避するためには、社外役員やコンサルなどの意見を入れて公平性を担保することが大事でしょう。

 

(2)リーダーシップについての考え方

サーバントリーダーシップという言い方もありますが、そこまでいかないまでも、成功すればするほど、褒められれば褒められるほど、抜擢されれば抜擢されるほど、ますます謙虚になり、努力や精進の必要性を自覚できるようなリーダーであってほしいと思います。

私の言う謙虚とは、自分の未熟さを自覚できるということです。しかし、努力して自己確立した人は、自力で自己確立できない人が許せない傾向性があるものです。そういう人は時間に耐える訓練をせねばなりません。

また、努力して成功した結果、天狗になってしまう人もいますが、せっかく努力したのであれば、その磨き上げた自分を自慢して人生を終わるのではなく、どうやって他の人を幸福にするか、そのためにどう自分の人生を生かすかを考えるようにベクトルを変えていってほしいと思います。その転機は、一つは成功をおさめ、一段と責任が重くなった時で、もう一つは挫折や失敗の時です。これはとても難しいことではありますが、そういう立場になった時には、人を恨んだり自分を責めたりせず、自分の考え方を変えるチャンスだと思うことができる人が、成長できる人だということを覚えておいてほしいと思います。

 

 

まとめ

人事についていろいろと話をしましたが、人事が激しく動くのは、経営的に厳しい環境にさらされたときや急成長するときです。逆に、人事が落ち着いているのは、経営が安定しているときだと思います。従って、組織がマンネリ化(ゆでガエル化)しつつあるときは、人事を変えることにより意図的に変化を起こすこともあります。今後の大きな課題としては、「組織の新陳代謝をしつつ、高齢化してくる社員が、年金が出ようが出まいが困らないように仕事を作っていく」ということでしょう。従来的な既成概念ではなく、新しいものの考え方が組織の中に根付けば、多くの方が長く仕事を続けていくことができるのではないかと考えています。この新しい考え方というのは様々で、変えてはいけないものもあれば、認識を改めるべきものも多くあります。

シリコンバレーに行くと、世の中の流れが大きく変化していっていることを切実に感じます。そういう時代の変化の中で、適切な危機意識や問題意識をお持ちいただいた方には、活躍のチャンスはたくさんあると思います。「現場はそれどころじゃない」と思う人もいるかもしれませんが、複眼思考的に「長い目」と「現場を見る目」の両方を持って取り組んでいただきたいと思います。また、会社の風土として人事方針を確立するということは、なかなか難しいことだとは思いますが、本日申し上げたことを念頭に置いて、それぞれの部署で試行錯誤を続けていっていただければ幸いです。