今年は、当社の中長期計画である「ニューフロンティア3ヵ年計画」の最終年です。この計画では、個人が取り組んでほしいテーマとして「自燃人革命」を掲げています。

『自燃人(じねんじん)』とは、自ら燃える人であって、自然人(しぜんじん)ではありません。要するに、以前から言っている言葉でいえば、自家発電できる人、セルフヘルプ型の人ということです。他の人から言われなくても自ら進んで物事に当たることができる人になろうということだと思います。これに対して、評価を与えられたり、上司に説得されたりするという何らかの誘因があればやる気が出る人のことを『可燃人』と言います。また、誘因があっても前向きになれない人のことを『不燃人』と言います。一般的にどこの組織においても、自燃人:可燃人:不燃人の比率は2:6:2(パレートの法則)なのだそうです。ですから、自燃人革命というのは、この比率を変えようということなのでしょう。しかし、「人を大切にする経営学会」などの視察に行くと、社員全員が自燃人の集団のような会社もあります。そういう会社の社長さんに「お宅は全員が自燃人ですね!」と言うと、「そんなことはありません。やはり2:6:2の法則は働いています。」とおっしゃいます。なぜかというと、そういう会社では、自燃人のレベルが高いのですね。ですからわが社の基準では自燃人であっても、その会社ではまだまだということになるのです。まぁ、そういう相対的なものではあるとしても、個人としては理想的な自燃人を目指したいものです。ということで、今月はどうしたら自燃人になれるのかというテーマで、自燃人とはどういう人なのかということを考えてみたいと思います。副題に「出雲で学んだこと」としてあるのは、先日出雲大社へのお参りもかねて出雲方面に数日出張した際に、自燃人の典型のような方々と出会えたからです。

 

1.自燃人の代表―大国主命(大黒様)

商売繁盛や縁結びで有名な出雲大社は皆さんご存知だと思いますが、お祀りされているのは、七福神の一人で大黒様とも呼ばれている大国主命様です。皆さんも、米俵の上で、大きな袋を背負って、ニコニコしながら打ち出の小槌をふっている大黒様の像をどこかで見かけたことがあると思います。また、地元のお菓子で有名な「因幡の白兎」という大国主命がウサギを助けたという逸話は知っていると思いますが、実際どういう話なのかはよく知らないのではないでしょうか。『古事記』に書いてあることを要約するとこういう話なのです。

「因幡の白兎」の物語

結論から言うと、大国主命というのは須佐之男命のご子孫で、大和の国を作った「国造りの神」です。他にも八十神と呼ばれるくらいたくさんお兄さんの神様がいたのですが、いろんな出来事があって大国主命が国造りをすることになったのです。そのエピソードとして特に有名なのが「稲羽(因 幡)の白兎」です。

出雲の対岸にある隠岐の島に賢い一匹の兎がいたそうです。ある日その兎は、向こう岸の大陸に渡ってみたくなりました。そこで、海にたくさん泳いでいるワニ(和邇=サメのこと)を利用しようと考えます。兎が泳いでいるワニに「ワニはずいぶんたくさんいるけど、やっぱり兎の方が多いよね」と対抗心をあおると「そんなことはない。ワニの方が多い」というので、「では、あなたの仲間を向こうの岸まで並べてください。その数を数えればどっちが多いかわかるでしょう」とけしかけます。兎の策略にはまったワニは仲間を連れてきて向こう岸までずらっと並ぶと、兎はその上をピョンピョンはねながら渡っていきました。そのまま向こう岸まで渡ればよかったのに、最後に兎はつい「お前たちはバカだね。数比べなんて真っ赤なウソだ。向こう岸に渡るためにお前たちを利用しただけなのだ」と言ってしまったのです。それを聞いたワニは烈火のごとく怒り、兎を捕まえて、懲らしめてやろうと皮をはいで海岸に放置してしまったのです。

ちょうどそのころ、大国主命と八十神と呼ばれるそのお兄さん方は、お母さん神様のアドバイスで、因幡の国に住む八上比賣(やかみひめ)という絶世の美女にプロポーズしようということになり求婚の旅に出たのです。その際、八十神たちは旅行の荷物を全部大きな袋に入れて一番下の弟に担がせたのです。これが、大国主命が背負っている袋なのです。大国主命は、そのようなひどい扱いをされたことを気にすることなく一人だけ遅れて旅を続けていました。

八十神たちは因幡の海岸で、皮がはがれて泣いている兎を見つけ、その理由を聞いて、「とんでもない悪い兎だ。もっと懲らしめてやろう」と「その傷を直したければ海に入って塩で洗い、太陽で乾かしなさい」と言います。改心していた兎は神様の言うことだからと、感謝してその通りにしたところ、前よりもっと悲惨なことになってしまい、泣いていました。すると、そこに遅れてやってきた大国主命が「兎さんどうしたのですか」ときくと、かくかくしかじかということだったので「それは大変だったね。手伝ってあげるから川の水で傷を洗い、蒲の穂の花粉を塗って治しましょう」と手当てをしてくれたのです。

感激した兎は「使用人のように他の人の荷物を背負っていらっしゃるけど、あなたこそ八上比賣を娶られるべき立派な神様です。八上比賣様の目に狂いはありません。」と告げたのです。この話をもとに、大国主命は「医療の神様」になり、心を入れ替えた因幡の白兎も「兎神」として祀られているわけです。

その後どうなったかと言うと、八上比賣は、兎の予言通り婚約者として大国主命を指名するのですが、これを面白く思わない八十神はなんと大国主命をだまして殺してしまうのです。しかし、「古事記」というか神代の時代のすごいところは、たとえ死んでも、それを悲しんだお母さん神様が高天原の神様に頼みに行くと、大国主命が生き返ってしまうところです。しかも、生き返った大国主命は再度お兄さん神たちに殺されるのですが、その度に生き返ってくるのです。しかも大国主命はお兄さんたちを恨みもせず、淡々と自分の修行に励むのです。

まことに個人的なことですが、鹿児島出身ということもあり、私は子供のころから西郷隆盛の大ファンなのですが、この大国主命の神話を聞いていると、どうしても西郷さんが思い返されるのです。それは、他の人の荷物をたくさん背負っても何一つ不平を言わずに、よかよかと笑っている西郷さんであり、弱いものを限りなく慈しむ西郷さんです。また、僧の月照と錦江湾に身を投げて蘇生した西郷さんであり、沖永良部島に流されても生き返って維新を成し遂げた西郷さんです。そして、最後は、自分を慕う若者たちのために生命を預けて亡くなっていった西郷さんです。

出雲の神様に多くの人がお参りに行くのは、そこに、西洋的な自己犠牲の精神とはちょっと違う大和心を感じるからではないでしょうか。ある意味、大国主命的な生き方こそ自燃人のお手本なのではないかと思うのです。

大国主命は、その後高天原で須佐之男命による厳しい修行にも耐え、国造りをされたため、農業、商業、医療、縁結び等々の神様として慕われています。

 

2.出雲で出会った自燃人① キシ・エンジニアリング 代表取締役会長 岸征夫さん

次に、大国主命様のご縁で、出雲で出会った素晴らしい自燃人の方々を何名かご紹介したいと思います。最初にご紹介したいのは、坂本先生の『ちっちゃいけど世界一誇りにしたい会社』等に掲載されているキシ・エンジニアリングの岸会長です。

同社は、出雲市駅からも少し離れた不便なところにある、従業員数名という話ですが、社員の方がいらっしゃるのかよくわからないような小さな会社です。機械メーカーということですが、ガレージのような作業場があるだけです。今回訪問した時も、75歳になられるという会長ご自身がお手製のヨーグルトとジャム、コーヒーなどで歓迎してくださいました。岸会長は、もともと地元の大手農機具メーカーのエンジニアだったのですが、40歳のころ脳に障害を持つお子さんのために独立されたのです。それ以来、呼吸器トレーナーやリフト付き電動車イスなどの障碍者向けの機器を中心として、大手自動車メーカー等からも一品ものの受注をしている会社です。

今回の趣旨は、この会社の経営理念や経営方針など「あり方」を学ぶことでも、事業内容を学ぶことでもありませんので、詳しく会社の内容を知りたい方は、前述の坂本先生のご著書などを読んでみてください。

私が今回お伝えしたいのは自燃人の典型としての岸会長です。一番、自燃人的なことは「好きでやっているだけ」と言い切れることです。「なぜ会社を始められたのですか?」「なぜこういう機械を作ろうと思われたのですか?」と伺っても、結局、「好きでやっているだけ」なのだそうです。間違いなく障害などで困っている方のためだと思うのですが、亡くなった娘さんのためともおっしゃいませんし、世のため人のためともおっしゃいません。会社の存続のためでもなく、利益のためでもなく、純粋に自分がやりたいこと、好きなことを好きなようにやっているだけ。

自然人の最大の特徴は「好きでやっているだけ」と言い切れることだと思います。

3.出雲土建・出雲カーボン 石飛裕司社長

最近では大分有名になりましたが、「炭八」という商品を開発した方です。石飛社長とは、2年くらい前に広島で開催された「人を大切にする経営学会」の中国支部の第一回例会でお目にかかったのが最初のご縁でした。その時に出雲土建、出雲カーボンの名刺以外に「出雲屋炭八」という変わった名刺をいただき、「この人はただものではない」と感じたのが最初の出会いでした。

「炭八」という商品に興味を持ったので、セリオデベロップメントの新規事業としてコラボできないかという思惑もあり、その後何度も出雲を訪問しました。「炭八」を天井や床下に敷き詰めた住宅では、湿気を防ぎ、防音効果に優れ、いやな臭いも防ぎます。本業が土建屋さんなので、「炭八」を敷き詰めた集合住宅を出雲市内に何棟も建てて、その効果を十年以上にわたり大学の研究室と共同で測定しています。

その後何度か訪問して、販売戦略の相談に乗ったりしていたのですが、住宅用以外に、個人的、家庭的にも多様な用途と販路があると思い、商標や特許についてアドバイスをすることになりました。その後テレビの通信販売で爆発的に売り上げが伸びたことから、昨年設備を増設したと聞き、今回はその設備を拝見するために訪問したのです。

この会社については、来年くらいに坂本先生がご著書に書かれるそうなので、楽しみにしていてください。さて、今回は、自燃人としての石飛社長の特徴についてお話します。

特徴の第一は、炭に狂っていること。自称「炭狂老師」を名乗っていらっしゃるので、そう申し上げても構わないと思うのですが、実に狂っているとしか言いようがないのです。要するに、四六時中そのことを考えている。没頭している。頭から離れない。しかもそういう状態が十年以上続いていて、ブレない、変わらない。

第二に、すさまじい努力をしているのだが、本人にはその自覚がない。これだけ長期間苦労しているのに、そういう雰囲気がまったく感じられない。妙な力みもなく、達成に向けての悲壮感もない。淡々と努力を楽しんでいる感じ。

第三に、才能があるとしか思えないのだが、本人にはその自覚が全くない。客観的に見て、天才的な発明をしているし、画期的な商品を開発しているので、間違いなく才能や資質があるはずなのだが、本人は意識していない。

第四に、ありえないくらい損得を考えていない。事業的には、当初極めてリスキーな事業だったが、リスクを全部ひとりで背負ってやり続けてきた。結果的に現在成功し始めてきたが、むしろ絶望的な状況の方が長く続いていたはずである。にもかかわらず、一切損得を考えずに続けてきたし、成功しても事業の急拡大を考えていない。

第五に、失敗が失敗にならない。単なる試行錯誤であり、成功へのきっかけだと心から信じているし、感謝している。

色々申し上げましたが、結局、石飛さんも岸さんも「好きでやっているだけ」なのです。

お二人の特徴から、あえて、自燃人の効能と言うべきものを上げるとすれば、何といっても、努力にモチベーションが要らないということでしょう。これは努力するのに他人にモチベーションを用意してもらう必要がある人と比べると、とてつもない強みです。なぜなら何らかの誘因(インセンティブ)がないとモチベーションが維持できないという人(可燃人タイプ)は、自力で努力が持続しにくいからです。しかも、例えば、ボーナスの上げ幅も毎回同じだとありがたさがなくなっていくように、誘因は、繰り返し使われると収穫逓減しやすく長続きしないでしょう。

つぎに、自燃人は極めて逆境に強い、というか、例え理不尽な外部環境の変化に遭遇しても、それをチャンスとして考えることができます。反対に、可燃人タイプの人はどうしても逆境に弱い。特に、理不尽な外部環境の変化に弱い。必然的に、失敗の原因を自分以外のものに求め、逃げやすくなります。どちらを選ぶかはまさしく個人の判断ではあるのですが、幸福感ということを考えて、自燃人を選ぶ方をお勧めしているわけです。

 

4.社会福祉法人雲南ひまわり福祉会

出雲の自燃人シリーズの最後にご紹介したいのは、昨年度、第9回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で実行委員会特別賞を受賞された社会福祉法人「雲南ひまわり福祉会」さんです。ここは、出雲市から車で小一時間ほどのところにある雲南市という人口3、4万人の地域で、就労型支援施設以外に介護施設やデイサービス、グループホームなど色々な事業を営んでいらっしゃいます。

こちらの施設の最大の特徴は、現在、職員として正職員が20名、非正規職員が28名いらっしゃるのですが、自主的に経営計画を立て始めてから8年間、正社員に誰も退職者が出ていないということです。大変失礼ですが、これは島根の山の中の施設の話です。

ご存知のように、現在介護業界等ではとんでもない人手不足になっています。人手不足というより来てくれる人がいないというのが実情のようです。その最大の原因は、人が定着しないことにあります。入ってもすぐに辞める。すると長くいる人の負担が大きくなり、その人たちも持たなくなる。採用に莫大な費用とエネルギーと時間がかかる。それも退職で無駄になる。こうした悪循環というか負のスパイラルが続いているのですが、この島根の山奥の施設では、他の施設では信じられないくらいの好循環が起きているのです。

今回は、当社の人財部の方々も一緒にその軌跡を学ばせていただきました。

1.「働きやすい職場」というのはどういう職場なのか、みんなで意識を共有した。

2.その後、従業員満足=利用者満足という方向性の下、中長期計画を策定した。

3.KPTを明確にして、職場の空気を換えたら結果的に退職者がいなくなった。

4.退職者がなくなり、好循環が生まれ、コストロスがなくなった。

5.最近では、採用も複数の候補者の中から選別できるようになった。

ということでした。

KPTというのは、Keep、Problem、Tryの略で、ブレストの方法です。みんなで、ポストイットなどにKeep(続けること)Problem(課題)Try(改善点)をどんどん書いていって、それをもとにPDCAを回していくやり方です。

結局、全員が「働きやすい職場」を意識し、それに向けて自燃人になっていったということでしょう。これこそ本当の意味での「働き方改革」だと思います。私は「働き方改革」=自燃人革命そのものだと思います。これを実証してくださったのが雲南ひまわり福祉会さんではないかと思いました。

そういう意味で、雲南ひまわり福祉会さんには学ぶべきところがたくさんあります。

 

NPOに学ぶ経営

ドラッカーもNPOの経営に学ぶべきだと言っていますが、その通りだと思います。なぜなら、NPOではKPIが収益的なものにならないからです。収益的なものは結果であって、より本質的なもの、根源的なものをKPIとして追い求めるからです。

企業経営においては、収益的な数字ばかり追っていると、結果が出ているときほど現状維持バイアスがかかりやすくなります。例えば、本当は今の仕事を減らして、新しい分野に進出すべきであるのに、そのことで前年対比売上の数字が維持できなくなるのではないか、結果的に賞与などに影響が出るのではないかと思うと、「今のままでいいじゃないか」という空気になりやすいのです。こうした空気を自分たちの意思で打ち破るためにも、本当の意味での「働き方改革」としての自燃人革命を推進していただければありがたいと思います。